蛋白質分子は、地球上の生命が長い時間をかけて進化させてきた、ナノメートル(10億分の1メートル)スケールの分子機械(生体ナノマシン)です。生命が日々生き、また次世代に生命を継ぐのに欠かせない分子なだけでなく、工業・農業・医療など様々な分野で、広く活用されています。有用な物質を迅速かつ低コストで作るための工業用触媒として、家庭用洗剤の中の酵素として、最新の抗体医薬品として、など例を挙げればきりがありません。 このような蛋白質分子の有用な機能(触媒能、結合能など)は、蛋白質の物理的性質(蛋白質物性)の一部です。そして、蛋白質物性についての学問が蛋白質物性学(Protein Physics)です。 蛋白質分子は、化学的には様々な種類のアミノ酸が多数一列につながった一本のひもです。アミノ酸の種類や並べ方は、生命では遺伝情報として保存されており、生物学的な研究の対象です。蛋白質物性の大元は、これらの生物学的・化学的な構造(1次構造)に依っていますが、一本のひもが様々な環境下で、様々な立体構造を形成する(2次構造・3次構造・4次構造)ことで、物性が決まることになります。その意味では、蛋白質分子の立体構造は蛋白質物性を理解し設計する上で、最も重要な情報の一つと言えます。 現在では、AIを使って、アミノ酸配列(1次構造)から3次構造を予測することが一部成功していますが、X線結晶解析・NMR(核磁気共鳴)・クライオ電顕など実験的に決められた立体構造の情報の方が信頼できる状況です。また、1次構造や立体構造から、肝心の物性を推定するのは更に困難で、現在のところ、実際に蛋白質を使って、実験データから物性を決めることが必要になります。 これまでに蓄積された、蛋白質物性についての知見や物性を決めるための方法や技術を駆使することで、より有用な高機能蛋白質の創製や、蛋白質の活用方法が発見できるはずです。21世紀の環境問題、食料問題、健康問題を解決するために、本研究所では、蛋白質物性学のさらなる発展をめざします。 |
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